今回のお悩み:親の介護を辞めたくなってしまっていて、親の介護の責任が誰にあるのか知りたい

今回届いたお悩みはこちらです。

一人暮らしをしていた70代の母の認知症が 昨年末から一気に悪化し、本格的に介護が始まりました。
しかし、時間にもお金にも余裕がなく、正直 介護を辞めたくなってしまっています。
ダメなこととは分かっていながら、このまま放置したらどうなるのだろう、親の介護の責任は本当に私にあるのだろうか、などと考えてしまいます。
親の介護の責任は誰にあるのか、私の現状にはどのような解決策があるのか、専門家の皆さんのご意見をお聞きしたいです。
( 40代女性 )

介護の精神的・身体的・経済的な負担に悩み、疲れている人は非常に多いといわれています。
中には、今回のご相談者さんのように「親の介護を放棄したい」と考える人も 一定数いるようです。
しかし実際には 法律上、介護の義務が発生する場合があるため、疲れたからといって介護放棄をするわけにはいきません。
また、当然ながら 介護放棄をしたら 親御さんはどうなってしまうのかという現実的な問題もあります。
今回は、介護の義務や、介護放棄をしたくなったときの解決策などについて、3人の専門家・実際の介護経験者をお呼びして それぞれの見解をお聞きしました。

① 高齢者福祉法専門弁護士 浅田さん(52)の視点:親の介護の法的責任とは

法律から見た親の介護責任

親の介護に関する責任や義務については、法律上、いくつかの観点から考える必要があります。
まず、民法上の「扶養義務」と「介護義務」は区別して考えなければなりません。

民法第877条に規定されている扶養義務によれば、直系血族(親子)および兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負うとされています。
しかし、この「扶養」とは主に経済的援助を指し、身体的な介護や同居の義務までは含まれていません。

一方、介護義務については、民法上で明確に規定されている条文はありません。
つまり、法律上、子どもが親の「身体的な介護」を行う明確な義務は存在しないのです。
ただし、老人福祉法では「国民は、老人に対し、敬愛の念を持って接し、その福祉を増進するよう努めなければならない」と定められており、道義的な責任が示唆されています。

扶養義務の範囲と優先順位

扶養義務についても、すべての親族が平等に負うわけではありません。
民法第877条第2項では、扶養義務者の範囲について、同居している親族、直系血族(親子)、兄弟姉妹の順で優先的に扶養義務を負うとされています。
さらに重要なのは、「扶養の程度や方法」は、当事者間の協議によって決定されるという点です。
協議が調わない場合は家庭裁判所が決定することになりますが、その際、扶養を受ける側の需要(必要性)と扶養を行う側の資力(経済力)の双方が考慮されます。

つまり、子どもに十分な経済力がない場合、扶養義務が軽減される可能性もあるのです。
例えば、相談者様のように「時間にもお金にも余裕がない」場合、扶養義務の範囲や程度は調整される可能性があります。

介護放棄と法的責任

では、親の介護を全く行わない「介護放棄」には法的責任が生じるのでしょうか。
これについては、状況によって異なります。

まず、経済的な扶養を全く行わない場合、法的に問題となる可能性があります。
特に親が生活に困窮している場合、子どもに資力があるにもかかわらず扶養を行わないと、扶養義務違反として訴えられる可能性があります。
また、親と同居しているケースでは、親を適切にケアしない「ネグレクト(介護放棄)」が「高齢者虐待」に該当するケースもあります。
高齢者虐待防止法では、養護者による高齢者虐待として、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待のほか、介護や世話の放棄・放任(ネグレクト)も規定されています。

ただし、子どもが親と別居している場合で、親に対して身体的な介護を行わないことだけでは、直ちに法的責任が問われることは少ないと考えられます。
しかし、親が要介護状態であることを知りながら全く対応せず、結果として親の健康や生命に危険が及んだ場合には、状況によっては「保護責任者遺棄罪」に問われる可能性も否定できません。

相談者様の状況と法的観点からのアドバイス

相談者様のケースでは、認知症の母親の介護に疲れ、「放置したらどうなるのか」と考えていらっしゃるとのこと。
これは介護者としてのストレスから来る自然な感情であり、まずはそのお気持ちを責める必要はありません。
しかし、法的な観点からすると、母親を単純に「放置」することは避けるべきです。
特に認知症の方は自己決定能力が低下しているため、何の支援もなく放置すれば、健康や生命に関わる危険が生じる可能性があります。

法的リスクを避けながら介護負担を軽減するためには、公的サービスの利用や他の家族・親族との役割分担、成年後見制度の活用など、様々な選択肢があります。
これらについては、次の専門家の方々からより詳しい解説があると思いますので、ぜひ参考にしてください。

② 地域包括支援センター主任ケアマネージャー 矢野さん(48)の視点:介護負担を軽減するための具体的方法

介護の責任を一人で抱え込まない考え方

介護は決して一人で抱え込むべきものではありません。
介護の「社会化」という言葉があるように、現代社会では介護は家族だけでなく、社会全体で支えるべきものとされています。
相談者様が感じている「介護を辞めたい」という気持ちは、決して異常なものではなく、多くの介護者が経験する自然な感情です。

まず大切なのは、介護の責任は子どもだけにあるのではなく、社会全体で分担するものだという考え方を持つことです。
介護保険制度をはじめとする公的サービスは、まさにそのために存在しています。

具体的なサービスの活用方法

認知症の母親を介護されているとのことですが、まずは介護保険サービスを最大限に活用することをお勧めします。
認知症の方の場合、要介護認定を受けることで様々なサービスが利用可能になります。

  1. デイサービス(通所介護)
    日中、施設で過ごすことで、相談者様の時間的余裕を作ることができます。認知症対応型のデイサービスもあり、専門的なケアが受けられます。
  2. ショートステイ(短期入所生活介護)
    数日から数週間、施設に短期入所できるサービスです。相談者様が休息を取りたいときや、用事がある時に利用できます。
  3. 訪問介護(ホームヘルプサービス)
    ヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行います。認知症の方の見守りも含まれます。
  4. 小規模多機能型居宅介護
    通い、訪問、泊まりを組み合わせた柔軟なサービスで、認知症の方に特に適しています。

これらのサービスを組み合わせることで、相談者様の介護負担を大幅に軽減できる可能性があります。
また、介護保険サービスは原則として1割負担(所得によっては2割または3割)で利用できるため、経済的な負担も比較的軽減されます。

他の家族・親族との協力体制の構築

親の介護は、可能であれば家族や親族で分担するのが理想的です。
兄弟姉妹がいる場合は、話し合いの場を設けて役割分担を決めることをお勧めします。
例えば、介護の実務は主に相談者様が担当し、費用面は兄弟が負担するといった分担方法も考えられます。

親族間で協力体制を構築するのが難しい場合は、地域包括支援センターや市区町村の介護相談窓口にも相談できます。
時には専門家を交えた家族会議を開催することで、より客観的な視点から解決策を見出せることもあります。

経済的な支援策の活用

介護には経済的な負担も伴います。相談者様が「お金に余裕がない」とおっしゃっていることを考慮すると、以下のような経済的支援策も検討する価値があります。

  1. 高額介護サービス費制度
    月々の介護保険サービスの利用料が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。
  2. 認知症の方を対象とした各種手当
    自治体によっては、認知症の方やその家族に対する独自の手当がある場合があります。
  3. 成年後見制度の利用
    認知症の方の財産管理を成年後見人に委託することで、本人の資産を適切に介護費用に充てることができます。

介護者自身のケアの重要性

最後に、介護者である相談者様自身のケアも非常に重要です。
介護疲れやストレスが限界に達すると、結果的に母親にとっても良いケアが提供できなくなります。
介護者支援のためのサービスとして、以下のようなものがあります。

  1. レスパイトケア
    介護者が休息を取るための一時的なケアサービスです。前述のショートステイもこれに該当します。
  2. 介護者の会やカフェ
    同じ立場の介護者と交流し、情報交換や気持ちの共有ができる場です。
  3. 介護者向けの相談窓口
    地域包括支援センターや自治体の窓口で、介護に関する悩みを相談できます。

相談者様が感じている「介護を辞めたい」という気持ちは決して恥ずべきことではありません。
まずは一人で抱え込まず、様々な社会資源を活用しながら、無理のない介護の形を見つけていくことが大切です。

③ 介護経験者・家族介護者支援団体代表 松本さん(61)の視点:介護放棄以外の解決策

私自身の介護経験から見えてきたこと

私は長年にわたり認知症の母親を介護してきた経験があります。
その中で、何度も「もう限界だ」と感じる瞬間がありました。
相談者様と同じように「介護を放棄したい」と思ったこともあります。
しかし、様々な支援やサービスを知り、利用することで乗り越えてきました。
その経験をもとに、具体的な解決策をお伝えしたいと思います。

施設入所という選択肢

まず検討していただきたいのが、施設入所という選択肢です。
「親の介護を放棄する」のと「施設に入所してもらう」のでは全く異なります。
施設入所は、専門的なケアを提供できる環境に親を預けるという、責任ある選択の一つです。

特に認知症の方の場合、専門的なケアが必要となるケースが多く、自宅での介護よりも施設での対応が適している場合もあります。
以下のような施設が考えられます。

  1. グループホーム(認知症高齢者グループホーム)
    認知症の方が少人数で共同生活を送る施設で、家庭的な雰囲気の中で専門的なケアが受けられます。
  2. 特別養護老人ホーム(特養)
    24時間体制で介護が受けられる施設です。入所待ちがあることが多いですが、費用は比較的抑えめです。
  3. 介護付き有料老人ホーム
    特養より入所のハードルは低いですが、費用は高めになる傾向があります。
  4. 小規模多機能型居宅介護の宿泊機能
    完全な施設入所ではありませんが、頻繁に宿泊サービスを利用することで、実質的に施設に近い環境を作ることもできます。

施設入所を検討する際には、事前に複数の施設を見学し、雰囲気や対応を確認することをお勧めします。
また、費用面についても、入所一時金や月額費用、介護保険でカバーされる範囲などをしっかり確認しておくことが大切です。

親の資産を活用した介護の実現

親自身の資産を適切に活用することも重要です。
認知症の方の場合、本人が適切な判断ができないため、成年後見制度を利用して財産管理を行うことが考えられます。
成年後見人は、本人の財産を本人のために使う義務があります。
介護サービスの利用料や施設入所費用、医療費などに親の資産を充てることは、決して不適切なことではありません。
むしろ、親の資産を親自身のためにきちんと活用する責任ある選択と言えるでしょう。

もし親の資産だけで十分な介護サービスを確保できるのであれば、子ども(相談者様)の経済的・時間的負担は大幅に軽減されます。
親の資産状況を把握し、どの程度の介護サービスが利用可能か、専門家に相談しながら検討することをお勧めします。

家族の関係性を見直す機会として

最後に、介護の危機は家族の関係性を見直す機会でもあります。
長年の親子関係の中で生じた葛藤や未解決の問題が、介護の場面で表面化することもあります。
相談者様が「介護を辞めたくなってしまっている」背景には、単なる時間的・経済的な余裕のなさだけでなく、これまでの親子関係が影響している可能性もあります。
この機会に、家族カウンセリングなどを利用して親子関係を見つめ直してみるのも一つの方法です。

また、無理をして介護を続けるよりも、適切な距離感を保ちながら親を支援する形を選ぶことが、結果的には双方にとって良い関係を維持することにつながる場合もあります。
施設入所後も定期的に面会に行くなど、できる範囲での関わりを続けることで、親子としての絆を保つことは十分に可能です。

介護放棄ではなく、様々な社会資源を活用しながら、親にとっても子にとっても最適な形を見つけていくことが大切です。
そして、どのような選択をするにしても、それは「放棄」ではなく、現実的な状況の中での「責任ある選択」であると考えていただきたいと思います。

まとめ

今回は、親の介護の責任や義務、そして介護に行き詰まったときの解決策について、3人の専門家・介護経験者の視点からご紹介しました。
法的観点からは、子どもには経済的な扶養義務はあるものの、身体的な介護義務は明確には規定されていないこと、また介護の負担を軽減するためには、介護保険サービスの最大限の活用や他の家族・親族との協力体制の構築が重要であることがわかりました。
さらに、施設入所という選択肢や親の資産を適切に活用する方法など、介護放棄以外の解決策についても具体的な提案がありました。

重要なのは、介護の責任を一人で抱え込まず、社会全体で支えるという考え方です。
介護に疲れ、限界を感じることは決して恥ずべきことではありません。
むしろ、そうした気持ちに正直に向き合いながら、自分にとっても親にとっても無理のない介護の形を模索することが大切です。

相談者様の状況がどのようなものであれ、必ず解決策はあります。
まずは地域包括支援センターやケアマネージャーなどの専門家に相談し、具体的な支援の可能性を探ってみることをお勧めします。
そして、どのような決断をするにしても、それは「放棄」ではなく、現実的な状況の中での「責任ある選択」であることを忘れないでください。

おわりに ~まごとも利用のすすめ

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今回は、高齢の親の介護の責任・介護放棄したくなったときの解決策などについて、3人の専門家・介護経験者の視点から解説してきました。
地域包括支援センター主任ケアマネージャーの矢野さんは、訪問介護などのサービスを有効に活用することを勧めていましたが、状況に応じて民間の訪問サービスを活用するのが有効な場合もあります。
ここでは 最後に、「シニアの生活に活気をもたらしてくれる」「高齢の親が 精神的に元気になり、活動的になったことで 身体的にも元気になっていった」などという声で話題になっている、少し変わった民間訪問サービスをご紹介します。
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