【聞き手・文】滝澤 侑明(まごとも / 京都大学三年生)
「おじいちゃんとの動画、いつも見てます!」 僕がそう切り出すと、YouTuberのあしなっすさんは「ありがとうございます!」と気さくに笑ってくれた。
100歳を超えるおじい様との日常を発信し、多くの注目をあつめるあしなっすさん。
孫として二人暮らしのお爺ちゃんを介護しながら、家族介護者に徹底的に寄り添う発信をし、多くの介護にかかわる人の心を軽くしている。
今回は、学生である僕らが知らない介護のリアルを知りたくて、家族介護のリアルを発信するあしなっすさんにオンライン取材を申し込んだ。
YouTubeを始めたきっかけから、介護のしんどさ、孤独感、コミュニケーションの秘訣、そして少し未来の話まで。
僕が聞きたかったことの全てを、根掘り葉掘りぶつけてみた。
今、介護で悩んでいるあなたに、きっと届く言葉があるはずだ。
「あしなっす」の誕生と、ありのままの発信

まずは、彼が現在メインで活動しているYouTubeなどのSNSでの活動についていくつか質問を投げかけてみた。
ーそもそも、なぜYouTubeなどのSNS活動を始めようと?
あしなっすさん:
『もともと芸人だったんですが、コロナ禍で舞台活動が全部なくなっちゃって。
その時、相方に「お前はおじいちゃんとやった方が絶対伸びる」って言われたのがきっかけです。
試しに当時96歳の祖父の動画をTikTokに上げたら100万回再生されて、「これはお金になるんじゃないか」と(笑)。それが正直なスタートですね。』
彼は正直にそう語ったが、初めはお爺ちゃんとの発信でお金を稼ぐということに抵抗があったみたいだ。
それでも、お爺ちゃんのためにもお金があったほうが良いだろうと、様々な葛藤を乗り越えた末に彼の発信がある。
ー介護のキラキラした部分だけでなく、大変な部分も正直に発信するのはなぜですか?
あしなっすさん:
『最初は「おじいちゃん可愛い、お孫さん優しい」みたいな動画を心がけてたんです。
でもある時、X(旧Twitter)で「あしなっすさんみたいに優しくできない。死にたい」という投稿を見てしまって。
僕だって動画にしてないだけで、おじいちゃんに怒ることもある。
それを隠して、同じように悩んでる人をさらに苦しめるのは違うなと。
だから、正直に怒る姿も配信するようにしました。
もちろん「虐待だ」と大炎上もしたけど、それ以上に「救われました」「自分だけじゃなかった」っていう励ましの声が殺到して。
こっちの方がよっぽど誰かのためになるんだって確信しました。』
ーありのままを発信するようになって、気持ちの変化はありましたか?
あしなっすさん:
『めちゃくちゃ楽になりました。嘘をついていないので。
正直な投稿を始めてから再生回数は減りましたけど、精神的な満足度は圧倒的に高いです。
以前は「お爺ちゃんだけじゃなくて俺のことも見てくれ!」って承認欲求が強かったけど、今はありのままの自分たちに共感が集まるのが純粋に嬉しいですね。』
彼の発信を特徴づける「ありのままの発信」。
動画では楽しそうなところ以外にも、介護に疲れた様子や、お爺ちゃんに強めの言葉を発する様子がそのまま映されている。
こうした発信こそが彼の魅力であり、思い悩む多くの家族介護者から多くの共感を得ている。
ー YouTubeを始めてから、ご自身の「介護」への考え方はどう変わりましたか?
あしなっすさん:
『僕の両親は中学・高校で亡くなっていて、3〜4年前に祖父が脳梗塞になってから本格的な介護生活が始まりました。
それまでは「ただ一緒に暮らしてる」感覚だったので、実際に始まってみると「こんなに辛いんだ…」の連続です。
そのストレスで、3年間、ほぼ毎日のようにパチンコに通っていました。
介護外の時間は、ストレス解消のためだけの時間になっていました。
でも、おじいちゃんが入院して介護から少し離れたら、パチンコに全く行かなくなった。
そこで初めて、自分がどれだけ大きな精神的負担をかかえていたのかに気づきました。』
家族介護者のリアルな本音 – 苦労、孤独、そして「恩返し」
続けて聞いたのは「家族介護」についてのリアルだ。介護生活の中で持つ様々な思いや経験について深堀りをしていく。
ー介護生活の中で、一番「しんどい」と感じるのはどんな時ですか?
あしなっすさん:
『特定の出来事というより、日々の「積み重ね」ですね。一番辛かったのは、今年の3月頃。
大きな事件はなかったのに、今までのストレスが積もり積もって、心がパリンと割れてしまった。
いわゆる「介護うつ」状態です。
特に精神的に喰らうのは、「こっちの努力が一瞬で水の泡になる時」。
良くなってほしい、できるだけ元気でいてほしい、その一心で一生懸命尽くしてきたのに、肺炎になったり転倒したり。
やってきたことが一瞬で無駄になる感じがする。「なんでだよ!」って。それが本当にきついです。』
介護をしている時も確かにしんどいが、一番つらいのはおじいちゃんが弱っていく瞬間を見ることだと彼は語った。
日頃からのお爺ちゃんへの元気でいてほしいという思いと愛がとても伝わってきた。
ー大変な中でも、在宅介護を貫いた理由は?
あしなっすさん:
『高齢者は、入院すると一気に筋力や認知能力が落ちてしまうという懸念がありました。
医療と介護で求める基準も違い、入院してしまうと生きるということだけになってしまう。
おじいちゃんはまだ自分で歩いてトイレに行けたので、家で生活してもらうのが、一番長く元気にいてもらえる方法だと思ったからです。』
ーもし他の誰かが介護をしてくれる状況だったら、同じ道を選んでいましたか?
あしなっすさん:
『たぶん、結局は手伝っていたと思います。
僕は純粋におじいちゃんのことが大好きですし、34年間注いでもらった愛情への「恩を返したい」という気持ちがすごく強いので。
この注いでもらった愛情を五年間で返すのは無理かもしれないけど、できるだけのことはしてあげたい。
介護をしていて、時にはストレスで暴力的な感情を抱くこともありますけど、そうしたときに踏みとどまれたのは、この恩の気持ちがあったからです。』
ー介護における「孤独感」とは、どう向き合っていますか?
あしなっすさん:
『めちゃくちゃ孤独を感じますよ。僕は34歳で、同世代で介護をしている人はほとんどいない。
友人たちが出世して家族を築く中で、自分だけが取り残されているという格差を感じます。
彼らに介護の話をしても本当の意味で理解してもらうのは無理で、逆に知ったかぶりのような話し方をされると腹が立つ。
外の世界と触れ合えば触れ合うほど、「自分は違うんだ」という孤独感が深まる悪循環でした。
でも、このリアルな感情を発信するからこそ、同じ境遇の視聴者の方から「私だけじゃなかったんだ」というコメントをいただけて、それが救いになっています。』
介護のしんどさの本質は、介護の動作や作業そのものではなく、それ以外の部分が大きいのだと感じた。
介護でせわしく動いている、その時その時のしんどさや辛さはその場で過ぎ去っていくものの、ストレスの積み重ねや周りとの違いを感じる時が一番つらい。
これは継続して家族介護をしている人にしかわからない辛さであることがひしひしと伝わってきた。
ストレスで心の病だと診断されたこともあるあしなっすさん。
でも、それでも心を休め、回復したらまたお爺さんのそばに寄り添う。
それは、辛さやしんどさはあるものの、それ以上に、「元気でいてほしい」「恩を返したい」というお爺さんへの強い気持ちから来るのだろう。
おじいちゃんとのコミュニケーションと生活の工夫

僕(滝澤)は、『まごとも』で活動している。
『まごとも』とは、学生がシニアのもとを訪問し、お出かけやスマホの支援をしたり、話し相手になったりするサービスである。
そんな、まごともの活動をする上でも参考になる、お爺ちゃんとのコミュニケーションの秘訣について聞いてみた。
ーおじい様とのコミュニケーションで、大切にしている「コツ」はありますか?
あしなっすさん:
『2つあって、1つは「敬語を使わない」こと。
高齢者は僕らの寝起きのときのようなイメージで、ぼーっとしている時間が長いので、「食べてください」より「食べろ」の方が、言葉が簡潔で、指示として機能的で伝わりやすいんです。
もう1つは「人間として尊敬する」こと。
以前、おじいちゃんが「”100歳なのに”って言われるのが嫌だ」と言っていて。
いつになっても年齢関係なく一人の人間として見てほしいという姿がめちゃくちゃかっこいいな、男だなって思いました。
そのようなこともあり、おじいちゃん扱いせず「男の先輩」として接しています。
認知症が進行しても、心の芯にある気遣いや思いやりを重んじることで、今でも尊敬できます。』
「尊敬している」のに「敬語をつかわない」一見矛盾しているようにも感じるが、これこそがお爺ちゃんとのかかわり方。
互いの信頼関係があり、人として尊敬しているからこそ、ため口や多少強い口調がストレートでわかりやすい意思疎通の手段なのである。
ー僕たちのまごともでは「孫世代と高齢者の関わり」をコンセプトに活動しています。あしなっすさんは孫として家族介護していらっしゃる数少ない人の一人だと思いますが、介護を通しておじいちゃんが前向きになっていったのは「孫だからこそ」できたことだったりするのでしょうか?
あしなっすさん:
『「孫だから」というより、前向きに生きてもらうために大事なのは、生活に「張り」を持たせることです。
数年前はおじいちゃんが落ち込んでいた時期があって、自ら「死にたい」ということもありました。
そこで、無理やりにでも色々な場所に連れて行って、景色を見せたり、美味しいものを食べさせたり、「刺激」を与え続けました。
そうしたら「死にたい」なんて言わなくなり、「今年はどこに行くんだ?」と自分から言い出すようになったんです。』
どうしても同じことの繰り返しになってしまう介護において、大切なのは「張り」を持たせることだという。
日々のお世話だけでも手一杯なのに、お爺さんの日常にスパイスを加えるというのは愛情があるからこそできることだろう。
「おいしいお寿司をたくさん食べさせてあげたせいで、中途半端なお寿司だとおいしいと言わなくなった」
そんな笑える小話も挟んで答えてくれた。
ー逆に、世代が離れているからこそ感じる難しさはありましたか?
あしなっすさん:
『やっぱり好きな曲がわからないとか、YouTubeの仕組みを理解してもらえないとか、そういうのはありますね。
そういった中で工夫しているポイントは、質問の仕方です。「何食べたい?」と聞いても「いらない」としか言わない。
でも「お寿司と焼肉どっちがいい?」と聞いたら「うーん」と返ってくる。そして次は「サーモンとハラミならどっちがいい?」と聞くと、やっと「サーモンかな」と返ってくる。
普通に質問して返してくれない時でも、具体的でクローズドな質問をすることで、本音が出てきたりします。
そういうやり取りで、「今でいうマッチングアプリじゃん!」みたいなおじいちゃんの昔の話と現代との共通点が見つかることもあって。それが年齢の壁を越えるきっかけになりますね。』
これからの話と、涙のわけ
せっかくのインタビューの機会なので、僕らの活動である「まごとも」についても質問させてもらった。
ー僕が活動している「まごとも」のような、学生が高齢者と関わるサービスについてどう思いますか?
あしなっすさん:
『素晴らしい取り組みだと思います。
ただ、気難しいお年寄りには対応が難しいという課題はありますよね。
あと、企業や団体の活動でありがちなのが、「元気な高齢者だけを成果としてピックアップしてしまう」こと。本当に大変な状況にある人は見えづらい。
そうはならずに、色々な方に寄り添ってほしいな、という親心のような気持ちはありますね。』
確かに、高齢者と関わるまごともの活動ではキラキラしているところだけではない。
介護のありのままを発信するあしなっすさんのように「まごとも」もサービスを必要とするすべての高齢者の方に正直に接することのできるサービスでありたいと感じた。
ーあしなっすさんの今後の活動について、どうお考えですか?
あしなっすさん:
『自分は、様々な場面で友人からの声かけや視聴者の方からのコメントによって助けられてきました。
今度は僕が孤独を感じている家族介護者の背中を押すような、「大丈夫っすよ」と言える活動をしていきたいです。
元気な高齢者だけでなく、本当に支援が必要な全ての人に光が当たるような、そんな手助けができたらと思っています。』
「在宅介護をしてきた人の気持ちは手に取るようにわかる」彼はそう言っていた。
介護の情報発信を続け、各地で介護についてのトークライブを行う彼だからこそ言えることであり、そうした活動をとおして介護にかかわることが彼の得意分野になった。
家族介護者のためのサービス「gohoubi」を始めた、とYouTubeでも動画をあげている。
「介護以外でも、ダンス、ラップもやりたい。まずはできることから、なんでもいいので」そう笑顔で語ってくれた。
ー最後に聞きたいのですが、介護をしていて、心から「良かった」と感じるのはどんな瞬間ですか?
あしなっすさん:
『正直に言うと、「介護」自体をやってよかった、とはあまり思わないです。
介護の最中は忙しすぎて喜びを感じる余裕なんてなくて、後からその価値に気づくことが多いんです。
でも、「おじいちゃんと一緒にいれてよかった」と思う瞬間はあります。
一番嬉しかったのは、ついこの前。脳出血で失語症になり、もう一生喋れないと言われてしまった。
入院して体も動かず、食事もとれず、体重も65キロから43キロまで落ちてしまった。
その状態で、僕の名前を…「秀介」と呼んでくれたんです。
あの時は…もう、涙が止まりませんでしたね。
なんで名前を呼ばれるだけで、こんなにうれしくて涙が出てくるんだろうって。
自分がやってきたことは、間違ってはいなかったのかな、と。そう思えた瞬間でした。』
最後に。今、孤独に戦うあなたへ

インタビューの最後に、今まさに介護で悩んでいる人へのメッセージをお願いした。
『介護は、孤独を感じるときが多いです。僕もそうでした。
でも、今の僕があるのは、友人や専門家、たくさんの人が手を差し伸べてくれたからです。
だから、どうか一人で抱え込まないでください。
周りの人一周ぐらいは、人を頼ろうとしてみてほしい。
家族、親戚、友人、そして僕もいます。
タイミングが合えば、コメントにも絶対に返信します。
色々な人の力を借りて、あなたの大切な人を守ってあげてほしいなと思います。』
インタビューを終えて
今回のインタビューで、介護のリアルな葛藤と、それでも失われることのない深い愛情を赤裸々に語ってくれた、あしなっすさん。
僕には想像もつかない家族介護のつらい一面と、それでも続けてきたお爺さんへの深い気持ちがひしひしと伝わってきた。
少し笑えるようなエピソードを交えてくれたり、最後にはこちらまで感極まるようなエピソードをしゃべってくれたり。
介護の在り方や、家族介護者の気持ちが少しわかった一方で、当事者でないとわからない苦労が無数にあるとも感じた。
これから自分が高齢者にかかわる活動していくうえで、非常に大きなものを得られたインタビューだった。
高齢者と関わる機会のあるすべての方に響く言葉があったのではないだろうか。
インタビュー記事を読んでくださった皆様、そして何より、快く取材を承諾してくださり、ありのままの言葉を届けてくださったあしなっすさんに、心から感謝いたします。
あしなっす/芦名 秀介(あしな しゅうすけ)
元お笑い芸人。YouTubeチャンネル「あしなっすの1週間」では、101歳(インタビュー時)の祖父との日常を“ありのまま”に発信。著書に『僕のおじいちゃんは99歳。』(KADOKAWA)があるほか、家族介護者のためのサービスも手掛けるなど、多岐にわたり活動中。
- YouTube: あしなっすの1週間
- X (旧Twitter): @ASHiNA_190cm
- Instagram: @ashina_190cm
【聞き手・文】滝澤 侑明 (たきざわ ゆうあ)
株式会社whickerの「まごとも」でWEB記事の執筆や実際に高齢者宅を訪問する学生として活動している。京都大学工学部の3年生。
ここから最後に少しだけ、僕が活動しており、今回あしなっすさんに取材するきっかけとなった「まごとも」について紹介させてください。

『まごとも』は、学生がシニアのもとを訪問し、お出かけやスマホの支援をしたり、話し相手になったりするサービスです。
エネルギーを持った若者との交流でその活力をシニアの方にも受け取っていただき、笑顔で前向きに日々を過ごせるようになります。
実際に自分が訪問した高齢者の方も、代り映えのない日々を過ごしている様子でした。
また、半身が不自由なので一人ではなかなか行動しづらい方でした。
しかし、自分が訪問するようになってからできる範囲で一緒に散歩に出かけたり、一緒に庭の草刈りをしたり、前向きに日々を過ごしてもらえるようになったと思います。
僕が活動する「まごとも」は、直接的な介護サービスではありませんが、あしなっすさんが教えてくれた「日常に“張り”を持たせること」は、まごともでもお手伝いできる部分だと自信を持って言えます。
僕も、「人として尊敬すること」など、あしなっすさんから学んだ高齢者の方とのかかわり方をどんどん実践していって、様々な高齢者の方に良い刺激を与えられるような「まごとも」を目指していきたいです。
興味を持っていただけた方は、ぜひまごとものHPをご覧いただきたいです。
- まごともHP:ホームページ – 【まごとも】高齢の親に“心の刺激”を|孫世代との交流で心の介護予防
- 各種SNSなど:孫世代の友達 『まごとも』公式リンクまとめ lit.link(リットリンク)
- メールアドレス:magotomo@whicker.info
ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました。
